Triangle Love 7 ~ 揺れる心は夏の蝶 ~
『よぉ、モトコ。珍しいな。男2人と密談なんて。恋愛相談か?告白って雰囲気じゃなさそうだしなー。』

ヨウ達と入れ違いで、ある男子生徒が教室内に入ってきた。

モトコの友達だ。

彼は、教室の奥に設置されているロッカーの前に立ち、その扉を開けた。

何か物を探しているようだ。

そんな友達の様子を確認したモトコは、ため息混じりに言った。

『ジロウくんはうるさいんだよぉ…。長男のくせにねぇ。』

『おい!さりげなく、名前イジんなよ。』

この友達はジロウという人物で、モトコとは同じ部活動に所属していた。

共通で所属している部は、英会話クラブだ。

名称はなぜか、英会話部ではないらしい。

ジロウが使用しているロッカーも、英会話クラブの物だ。

彼はこのロッカーに、大量の私物を仕舞い込んでいる。

部に所属しているからといって、私物を勝手に入れても大丈夫かどうかは怪しい。

『ジロウくんは、今日もこの教室で過ごすのぉ?』

モトコはジロウに尋ねた。

『そう思ってたけど、モトコが使ってんなら俺は出ようかな。』

『この後は誰も来ないから、居ても大丈夫だよぉ。』

『いいのか?じゃあ、使お。』

ジロウはそう言って、ロッカーの中からカバー付きのマンガを数冊取り出した。

カバーを付けている理由は、教師達に見つかってしまった場合の対策らしい。

本を片腕で抱えたジロウは、壁際に散らばっている椅子のひとつに座った。

モトコもジロウも、部活動が無い日は、この空き教室を頻繁に使用していた。

モトコは、誰かからの相談を受けたり、自分だけの時間を過ごす為だ。

ジロウは、付き合っている彼女のことを待つ為だ。

彼女の部活動が終了する時刻まで時間を潰し、一緒に帰宅するつもりだ。

『ジロウくんは彼女が大好きだねぇ。』

『そんなんじゃねーよ。たまたまだよ。』

『あれれれぇ?大好きじゃないと、毎日、何時間も彼女のこと待てないと思うよぉ?』

『うるせぇよ!毎日じゃないし、週に2日だけってルールだから!』

ジロウはそう言って、食い入るようにマンガ本の方に顔を向けた。

口調は怒っているが、本当は全く怒っていない。

むしろ、嬉しそうだ。

部活動が無い放課後でも、ジロウがこの教室にいる理由を、モトコは知っていた。
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