魔女の瞳Ⅳ
「そういう態度をとられてこそ、異端審問官の腕の見せ所という奴だ」

何が嬉しいのか、男は嬉々として台の上に置いてあった道具を手に取る。

ペンチ。

今でこそただの工具だが、『この男が生きた時代』には、別の用途があった。

「嬉しいよ…1645年…あの時代のイングランドでは、魔女への拷問は許されていなかったものでね…」

そう言って。

男は桜花の右手を掴み、そのペンチで彼女の親指を…!

「いっ…きゃあぁぁあぁあぁぁっ!!」

その激痛に、桜花が悲鳴を上げる。

『親指潰し』

それが、このペンチの別名だった。

1645年、その当時のヨーロッパで実際に使用されていた、魔女裁判の際の拷問道具である。

私もヨーロッパで魔女狩りに引きずり出された時、何度か経験した事があるので、桜花の辛さはよくわかる。

…だから、不思議で仕方なかった。

何で桜花は、魔術を駆使してあの場から逃げないの!?

何であんな屈辱を受けながら、拷問に耐えるの!?


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