「役立たず聖女」だからと捨てられた私を拾って溺愛し大切にしてくれたのは、大国の冷酷非情な竜帝でした~真の聖女の加護の力が失われたと気がついても手遅れですし、助けるつもりはありません~
 ここのところの静かで穏やかな日々にすっかり慣れ親しんでいることと、舞踏会のことで頭がいっぱいいっぱいで、自分の体のことをすっかり失念してしまっていた。

 着古したドレスを脱がせてくれてコルセットだけになった瞬間、フィオナとアーダが息を飲んだのを感じた。

 そこでやっと思いだした。

 腕や足や体に、痣や傷痕や火傷の跡があることを。

 フィオナには自分のことは自分でやると宣言していたので、これまで見られるタイミングはまったくなかった。
 それで安心していたのもあったのかもしれない。

 しまったと思ったときには、スタンドミラーにエルマが映っていた。それから、侯爵夫人の姿も。

「ナオ……」

 うしろに立つエルマに向き直ると、彼女はただ静かに涙を流している。

 衣服を身につけていては見えないところについている痣や傷痕や火傷の跡を見れば、なにがあったか察して然るべきでしょう。
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