「役立たず聖女」だからと捨てられた私を拾って溺愛し大切にしてくれたのは、大国の冷酷非情な竜帝でした~真の聖女の加護の力が失われたと気がついても手遅れですし、助けるつもりはありません~
「お先にどうぞ」

 エルマに促され、そのジャケットの手を取った。

 そして、その手に導かれて地面に降り立った。

 馬糞のいいにおいと言っては変に思われるけれど、わたしにとってはにおいも含めて馬に関することはなんでも「いい」に属する。

 とにかく、地面の土ですら感触がいい。

 ぺたっとした靴でよかったわ。

 残念だけど、ルーポに乗ることは出来ないわよね。着古したボロのドレスであってもドレスはドレスだから。

 そういえば、デボラの取り巻きの一人に「お祖母様のお古?」みたいなことを言われたわね。

 そんなことをかんがえていたので、スーツ姿の青年がこちらを見つめていることに気がつかなかった。

「公爵令嬢、はじめまして。挨拶が遅れて申し訳ない」

 バリオーニ帝国はすごいわね。

 会う人会う人のほとんどが、美男美女ばかりじゃない。

 メガネをかけた美しく知的な顔が、にこやかな笑みとともにわたしを見ている。

 長身で足が長い。ブラウンの髪に同色の瞳。知的な顔つきだけど、けっしてきつい感じではなくやわらかい。グレーのスーツが彼の美しさをよりいっそう際立たせている。

 んんん?彼の雰囲気ってどことなく覚えがあるような……。
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