独りぼっちの夜に、君を照らす月をかじりたい。
第1章

─夜明けの雪歌

202◯年12月1日 90/90

「ゆうちゃん、今日も学校、頑張ってきなね」
「はーい」

 私の背中に優しく添えられた祖母の(みのり)の温かい手に背中を押されて、私の重たい体は家の外へと追いやられた。
 学校、嫌だなあ……。
 私はそっと心の中に情けない愚痴を零す。

「それじゃあ、行ってきます」

 おばあちゃんを振り返って言った。

「はぁい、いってらっしゃい。気をつけて帰っておいでね」
「うん、分かった。寒いのにいつも見送りに来てくれてありがとねおばあちゃん!」
「いえいえ。ゆうちゃんのためなら、ばあちゃんは何だってするよ」

 おばあちゃんは私をゆうちゃんと呼ぶ。その優しい響きが私は昔から大好きだ。

「はは、それは嬉しいな。でも、無理しない程度にでいいんだからね!」
「ふふ、はいはい」

 おばあちゃんは口に手を添え、しわくちゃな顔を優しく緩め、笑顔で私を見送ってくれた。
 深々と降り積もった(けが)れを知らないまっさらな雪を踏み続ける。今日は雪が膝丈あたりまでくるほどに深く積もっている。
 山を降り、バス停へ向かう中、ふと吐いた息が真っ白だった。
 生温かいそれは、冬の凍てついた空気に瞬く間に溶けて、跡形をなくす。
< 2 / 14 >

この作品をシェア

pagetop