無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
§1.一世一代の計画
 季節は七月。梅雨が明けた途端に気温が高く、焼けつくような日差しがジリジリと私の肌を刺す。
 今朝はうっかり寝坊をして家を出るのが遅れ、二本遅い電車に乗って通勤した。
 そのせいでラッシュに巻き込まれ、車両内は満員でさらに暑苦しい。

 駅に到着したところで時計に目をやったが、まだ遅刻ギリギリの時間ではなかった。
 今日は朝一から自分のルーティンが崩れてしまったため、ちょっとしたことでも調子が狂う気がしてなんだか落ち着かない。
 よろよろと改札を通って外に出ると、すでにアスファルトからの照り返しで蒸し暑く、一気に額から汗が吹き出す。

「うわ、あっつ……」

 小さくひとりごとを言いつつ、オフィスビルの方角へ足を向ける。

 私の名は神野 知鶴(じんの ちづる)。今月二十五歳になった。

 私が勤務する等々力(とどろき)会計事務所は、高層ビルが乱立するオフィス街にある。
 こんな都会の真ん中に事務所を構える必要があるのかは甚だ疑問なのだけれど、最寄り駅から徒歩ですぐ辿り着けるのはありがたい。

 紫外線を避けるために、建物の影になっている場所を選んで早足で歩いた。
 日焼けをしたら肌が赤くなってしまうし、年齢を重ねたときにシミになるのは嫌だ。

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