無茶は承知で、今夜あなたに突撃します
§3.新しい年下友達
***

 季節が九月になっても厳しい残暑は続いている。
 時刻は十八時。オフィスはエアコンが効いているけれど、仕事が終わって外に出ると、すぐに肌が汗ばんで不快で仕方ない。早く涼しくなってもらいたものだ。
 とはいえ、真夏に比べれば日が落ちる時間がかなり早くなった。

 今日はハワイアンカフェで晩ご飯を食べて帰ろうと思い、ビルを出た私はそちらに足を向けた。
 普段は自炊をしているけれど、時折あのカフェのロコモコが無性に恋しくなる。

 私がオフィスを出るときに、志賀さんはまだ仕事をしていた。
 叶わない夢だと頭ではわかっているが、一緒に食事できればよかったのに、と心の奥底で思いがつのる。
 彼はきっと、あそこのおいしいロコモコを食べたことはないだろうから。

 だけど正直、志賀さんとロコモコのイメージは私の中では結びつかない。
 どちらかというとスタイリッシュな彼には高級ステーキのほうが似合うかな。
 そういえば、以前にふたりで訪れたお店のスモークチーズやソーセージは、オシャレな志賀さんのイメージにピッタリだった。

 ……ああ、ダメだ。油断するとすぐに志賀さんのことで頭がいっぱいになる。
 気持ちにケリをつけなければいけないのに、私はなかなかそれができなくて、本当に困ったものだ。


 カフェの入り口の扉を開けると、いつも出迎えてくれるはずの聖くんがレジカウンターにいて会計業務をしていた。
 支払いをしている来店客は三人組で、笑いながら話しているのを見ると、どうやら聖くんの友達みたい。
 全員肌が小麦色で茶髪という外見だし、波の具合がどうのという会話が聞こえてきたので、彼のサーフィン仲間だと思う。
 
 それにしても、聖くんが本当に楽しそうに笑っている。
 いつもは女性客に声をかけられても、こんな笑い方はしない。あれはビジネススマイルだったのだ。
 気の合う友達に対してはとても自然体なのだなと聖くんを横目で見ながら、別のスタッフに席に案内してもらった。

 とりあえずメニューに目を通したものの、やっぱり初志貫徹でロコモコにしようと目線を上げたら、水とおしぼりが視界に入ってくる。
 持ってきてくれたのは聖くんだった。

< 35 / 92 >

この作品をシェア

pagetop