囚われのシンデレラーafter storyー


この2年、コンクールを目的に生きて来た。
コンクールが終われば、ここがまた新たなスタートになる。

喜んでばかりもいられない。

入賞したことの重みを、改めて感じていた。

その評価と期待を裏切ってはならないのだ。
もっともっと、努力していかなければならない。




 夜、寮の部屋で、西園寺さんからもらった連絡先のメモを見つめる。

さっきまでは、早く早くと思っていたのに、いざ電話をしようと思うと緊張した。

パリとモスクワの時差は1時間。

まだ、仕事中かな。でも、もう遅い時間だし、大丈夫だよね……。

あれこれと思案しながら、電話をかける。
呼び出し音の回数の分だけ、鼓動が早くなって行く。そして、それが途切れた。

「もしもし、あずさです……っ!」

(あずさ?)

西園寺さんの声だ――!

「は、はい! 今、話しても大丈夫ですか?」

(ああ、大丈夫。電話、待ってたよ)

その言葉にホッとする。

電話越しの声――。

それだけで、ドキドキと胸が煩い。

ダメだ……。好きが溢れて仕方ない。
実態はともかく、心だけは完全に恋する乙女状態だ。

(……声聴くと、ダメだな)

「え……っ?」

私の心の声と同じような言葉が聞こえて来て驚く。

(会ったばかりなのにな。あずさと会えた喜びで浮かれていたのに、もう、会いたくて仕方なくなってる)

「西園寺さんも、浮かれてたの?」

(俺"も"って、あずさも?)

あ――。

「は、はい。ちょっと、部屋で一人、年甲斐もなくはしゃいじゃいました」

部屋での騒ぎは、恥ずかしくてこれ以上詳細には伝えられない。

(はしゃいだのか? どんな風に?)

「いや、それは――」

(その様子、こっそり見たかったな)

「それだけはごめんです。絶対に見せられない。西園寺さんに、呆れられてしまうと思います」

(呆れたりなんかしないよ。あずさは、何をしても可愛い)

そんなことを、そんな甘い声で、言わないでください――!

(――早く、会いたいな)

一人身悶えていると、改まったように低い声が耳に届いた。


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