囚われのシンデレラーafter storyー


 松澤さんのような人が本気で惚れるような女性は、おそろしく才能があっておそろしく美しく魅力ある人なんだろうと考えてみるも、あの唯我独尊的な人物の恋愛なんて想像もつかない。

 松澤さんからもらったペットボトルのキャップを閉め、バッグにしまう。

そして、壁にかかる時計を見た。

もう、こんな時間だ――。

待ち合わせをしている時間の5分前。昨日は、5分前には佳孝さんは建物の外で待っていた。

もしかしたら、もう着いているかもしれない――。

これから楽器を片付けて、部屋を元通りにして鍵を返しに行ったりしていたらもう少し時間がかかる。

”もしもう着いていたら、外は寒いので、一階ロビーで待っていてください。これから急いで帰り支度をします”

そうメッセージを送り、片付けを急ぐ。
複数の団体が入っている建物なので、ロビーまでなら誰でも入れる。

”了解。中で待っていることにするから、急がなくていいよ”

すぐに佳孝さんから返信が来た。



 その日も佳孝さんと夕食を共にして、ホテルまで送り届けてもらった。

 ホテルの部屋に戻るなり、すぐにバイオリンをケースから取り出す。

松澤さんから出された指示を、一つ一つ音を出しながら確認していく。

明日、明後日とオケとの合わせがある。それに、明後日は佳孝さんの誕生日だ――。

だからこそ、誕生日の日までにある程度目途を付けておきたい。

パリのオケの人に、失望させないように――。

私は私の力をきちんと知らしめなければならない。

そして、誕生日の日は、佳孝さんのために時間を作りたい。

その日遅くまで、バイオリンを弾き続けた。

< 174 / 279 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop