囚われのシンデレラーafter storyー


 その日も仕事を終え、すぐに、あずさがいるパリ管弦楽団の練習場の建物へと向かっていた。それも三日目だ。

 本当に、自分自身に苦笑する。誕生日は明日だ。その日のためにあずさが時間を作ってくれているのを分かっている。

なのに、それまでの数日さえも耐えられないなんて――。

建物の前に到着しスマホを確認すると、あずさからメッセージが届いていた。

【少しコンマスの人と調整したいことがあって。暖かいところで待っていてください】

それにすぐに返信する。

【じゃあ、今日も1階ロビーで待っている。結構快適だから、時間は気にしなくていい】

スマホをコートのポケットにしまい、ロビーに足を踏み入れる。

次々に楽器を背負った人たちが出て行く。
オケの練習自体は終わったのだろう。

その人たちの邪魔にならないように、ロビーの隅で立ちながらしまったスマホをもう一度取り出しニュースをチェックする。

「――西園寺さん……」

え――?

突然聞こえた日本語と自分の名前に驚き、すぐにスマホから顔を上げた。

「……ああ、やっぱり。どこかで見たことがある方だと思ったんだ。あの西園寺さんだったんですね」

そこに立っていたのは、松澤――あずさのコンチェルトを指揮する、松澤だった。

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