囚われのシンデレラーafter storyー


 あずさのいなくなった会場は、まだ熱気に包まれていた。誰もが、まだその余韻から離れたくないという気持ちだと分かる。

”何度も聴いた曲なのに。この感動は何?”

隣の席にいる人のフランス語が耳に届く。

そうでしょう? あずさは最高なんです――。

そう心の中で呟く。

 会場を見回し、後方の席から観客を見つめる。そのすべての光景が滲んでいる。

 滲んで滲んで。はっきりと見たいのに、まるで視界はクリアにならない。

あずさ――。

俺は、親から与えられた容姿だけに恵まれた、中身はカッコ悪くてダメな男だ。何もない。

あずさはそれを知っていても、こんな男を愛してくれる。それも10年もの間。

他の(ひと)なら、すぐに愛想を尽かして忘れてしまうだろう。
本当にあずさは変わっている。
本当の俺を知っても愛し続けてくれるのだから。

あずさが俺に出会わずに済んでいたら――。

2年前に何度も考えた意味のない仮定。

現実は、出会ってしまったのだ。


 静かに席を立つ。

 あずさの愛が、俺を強くする。あずさを全力で愛したい。

 そうすることで、俺は何があっても強くいられる。この先何があっても。

 世界中でただ一人。俺が心から愛した人だ。


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