囚われのシンデレラーafter storyー

「強くて純粋なだけの人間なんているのか?」
「佳孝さん……」
「時には、弱さに負けることもあるし、醜くなる時もある。狡くなることもある。でもだからと言って、あずさの強さや純粋さが嘘になるわけじゃない。俺は、そうやって弱い部分も見せてほしいと思うよ」

優しくて強い眼差しに、熱いものが込み上げて来る。

「ごめんなさい。佳孝さんを驚かせるようなことをしてしまったのは、不安だったから……」

西園寺さんの言葉が私の心を解放してくれる。

「不安?」
「……本当に、どうしようもない理由なんです。ただの不安と嫉妬」

熱い雫を頬に滑り落としながら笑った。

「ホテルで、佳孝さんが部下の女性と二人で歩いているのを見て。あの人はいつも近くにいるんだろうなとか、そんな、みっともない感情で――」

私が冗談めかして話すのを、髪をゆっくりと撫でながら聞いている。

「分かってるの。佳孝さんが私のことをちゃんと想ってくれているって。なのに、おかしなこと考えちゃって。私はいつも傍にいられないから、だから、少しでも繋ぎ止めたいなんて思って、あんなこと――ごめんなさい」
「あずさ……」

私の背中に温かな手のひらが触れ、そのまま抱き寄せられた。

「他人の心を透けて見ることはできないからな。頭では分かっていても心が言う事を聞かないことがあることは、俺も知っている」

静かに染み渡るような声に、じっと耳を傾けて。その優しい胸に頭を預ける。

「――だから。不安になったら、それを俺にぶつけてくれ。そのたびに、あずさに伝えるから」

大好きな腕が、その手のひらがきつく私を抱きしめてくれる。

「何度でも伝える。あずさだけだって。俺の知らないところで、あずさが苦しんでいるなんて想像もしたくない」
「うん」
「こんなにも心はあずさだけで一杯なのに、それが伝わっていなかったら最悪だ」
「……うん」
「――好きなんだ。俺を強くするのも弱くするのも、人には見せられないような姿にするのも、あずさしかいない」
「うん……っ」

嬉しいのに涙が溢れる。

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