囚われのシンデレラーafter storyー


 朝、身支度を整える。

 鏡の中に映る私は一見すると何も変わらない。でも、隠している肌に無数の痕があることを知っているから、自然と身体が熱くなる。首元、一番上までボタンをしめた。

「あずさ、そろそろ行こうか」
「――はい」

寝室に現れたその姿を見ただけで、この身体は敏感に反応する。

あの人の隠れたところにも、私の付けた痕がいくつもある。

言葉には決して出来ないどんな恥ずかしいことも二人でした。

私のスーツケースを西園寺さんが手に取り、一週間を過ごしたこの部屋を後にした。


 空港までのタクシー内で、私たちはあまり口を開かなかった。何を言葉にする気にもなれなかったのだ。言葉が出てこなくても気持ちは溢れてしまう。それをお互いに分かち合うように、ずっと手を握りしめていた。

 空港に到着し、搭乗者以外立ち入ることができない場所までたどり着いてしまう。人の往来する中で向き合うように立つと、不意に西園寺さんが握りしめていた私の右手をそっと持ち上げた。その仕草をただじっと見つめる。

「……この指輪、してくれて嬉しい。でも、いつか……」

右手薬指の指輪をなぞって。そこで、何故か口を噤んでしまった。

「あずさ――」

その代わり、その場で私を抱きしめた。

「佳孝、さん……?」

人で溢れかえる空港だ。
多くの人が行き交う。
焦る私を押さえ込むように、その腕に力を込めて来た。

「あずさのおかげで、本当に楽しかった。会いに来てくれてありがとう」
「ううん。私の方こそ、幸せな一週間でした」

私も背中に腕を回した。

「あずさ、愛してる」

心から漏れ出たみたいな声に、胸がきゅっとなる。その腕が、きつく私の身体を締め付ける。

「……私も、愛してます」

回した手で、背中のシャツを強く握り締めた。

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