後輩と玉子焼き
西園(にしぞの)先輩。
今日は弁当、ですか?
そんな女らしいこと、できたんですね」

食堂の隅でお弁当を開いた途端、隣に座ってきた男をそのかけているリムレス眼鏡越しに睨んだ。

「……いいでしょ、別に」

椅子をずらして逃げられるところまで逃げたのに、奴も椅子をずらして横にぴったりついてくる。
嫌な奴に見つかった。
でも、いまさら別の場所になんて移動できないし。
はぁっ、小さくため息をついたところで奴――志摩(しま)くんは気づく様子もない。

志摩くんは私の四つ下の後輩だ。
私が新人教育を受け持っていた頃から、彼はなにかと態度が大きかった。
しかし教えたことはすぐに覚え、さらに私よりも優秀となればなにも言えない。
そしてそれ以外にも、私には彼が苦手な理由がある。

無言で私がお弁当を食べ始め、志摩くんもラーメンを啜りかけたが手が止まる。
彼の、黒メタルのリムレス眼鏡が真っ白に曇っていた。
眼鏡を外し、軽く振って彼は曇りが取れるのを待っている。
そういうのがなんか、いいなと思った。

「俺の顔になんかついてますか?」

私の視線に気づき、志摩くんの右頬が上がる。

「ばっ、そんなんじゃ、ない」

つい見とれていたのを知られた気がして、乱暴にウィンナーを箸に刺して噛みついた。
ずっと、志摩くんの顔がきれいだと思っていた。
顔だけじゃない、姿勢も、仕草も。
がさつな自分とは全然違う、別な生き物。
そんな志摩くんが、羨ましいとすら思っていた。
だからこそ、私は志摩くんが苦手なのだ。
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