若旦那様の憂鬱
「…中に入るか?」

柊生は心を読み取れない表情で招き入れてくれる。

「お邪魔します…。」
そっと靴を脱いで花は初めて射場に入る。

ヒヤリとした床が、のぼせそうになる心を程よく冷やしてくれる。

「生憎スリッパが無いんだ。準備室の方へ、そこなら少しは暖かい。」
四畳半ほどの和室に通してくれる。
こんな場所があったことを花は初めて知った。

壁に柊生の背広がかかっている。
着替える場所なんだと理解する。

中には小さな電気ヒーターが一つあって、柊生は花の為に座布団を一枚ヒーターの側に置いてくれる。

そうして、何故か柊生は射場の板間に正座して、こちらを見据える。

この不自然な距離に、花の心がズキンと音を立てて痛み出す。

花も仕方なく座布団に座りお弁当を取り出す。

「ちゃんと食べてるか気になって、ごめんね。稽古中に邪魔しちゃって…良かったら食べて。」

そう言って、お弁当を差し出す。
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