若旦那様の憂鬱

あっ!
確か、年末の大掃除でみんな忙しくて、
夕飯を届けに旅館に行った時だ。

「あっ、確か玄関ホールの所ですよね?」

そう言うと、前嶋さんは嬉しそうに微笑み、

「そうです。
こんな安物のペンを貴方は一生懸命走って私に届けてくれた。
その笑顔が忘れられなくて、
どうしても、もう一度会いたくてお見合いと言う場をお願いしたんですが…。」

そこで前嶋さんはため息を一つ吐く。

「今、お付き合いしてる方はいらっしゃらないと、旦那様から聞いていたのですが……、
良かったら理由を教えて頂けますか?」

そんな思いでお見合いの話を頂いた事を知って、直ぐに断ろうと思っていた自分が申し訳なくて、後ろめたい気持ちになる。

「ごめんなさい。
あの……私…好きな人がいます。
その…、その人以外をこの先好きになる事は無いと思うんです。」

ごめんなさいの気持ちを込めてありのままの気持ちを話す。

「僕は、貴方に運命を感じてしまったのですが…僕が隙居る余地は無い、と言う事ですね。……残念です。」
寂しそうな笑顔に心がズキンと痛む。
もしかしたら、私だって柊君に思いが届かなかったら、前嶋さんと同じような気持ちになったと思う。

同情……してしまう。

「あの…、本当に申し訳ありません。
でも、前嶋さんだったらきっとおモテになるでしょうし、私なんかより素敵な方が見つかると思いますよ。」

「僕は、他の誰でもなく貴方が良かったんです。」
寂しそうな笑顔でそう言う。

なぜか私が泣きたくなる。
柊君に気持ちが届かなかったら…きっと…
他の答えもあったのかも知れない。

もしかしたら、タイミングも出会いの順番も変わっていたら……。

ううん。それでもきっと柊君が好き…。

「あの……応えられなくてすいません。
これで……失礼させて頂きます。」
私が彼に出来る事はもう無い。

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