若旦那様の憂鬱
お昼の後も2人はアトラクションを暗くなるまで楽しんだ。

お土産もいっぱい買って帰る時間になる。

花は少し寂しくなりながら柊生に手を引かれて車に乗り込む。

「また来ような。」

柊生は寂しそうな花の頭をポンポンする。

車の中、
先程までの雑踏が消え、シーンと静まり返っている。

「楽しかったか?」

「すっごく楽かった。
今までで1番だと思うくらい楽しかったよ。」
満面の笑みを見せて花はそう言う。

「俺も、花が楽そうで嬉しかった。
これから、もっといろんなところに一緒に行こう。花の行きたいリストを今年中に全部制覇するつもりだ。」

柊生も満足そうに微笑んで、エンジンをかける。

「あの、あのね。柊君……今日は連れて来てくれてありがとう。」
花は勇気を振り絞って身を乗り出し、
柊生の頬にそっとキスをする。

柊生が、
えっ⁉︎と、驚いた顔をする。

「心臓、止まるかと思った…。」
そう言う柊生は口に手を当ててしばらく固まっている。

そのな柊生を初めて見た花も驚く。

「柊君、いつも冷静沈着だから、
…動揺とかしない人かと思った。」

「俺だって…花の事では動揺しまくりだ。
今日だってちょっと離れただけでナンパされてるし、隙だらけで、いつだってハラハラされっぱなしだ。」

「あれ…ナンパされてたの?」

「周りの男達がどれだけ花を見てるのか、もっと自覚を持った方がいい。花の魅力を分かって無いのは花だけだ。」
怒った顔を柊生が向ける。

「…ごめんなさい。気を付けます…。」
恋愛偏差値が低過ぎて、そういう事に疎いのは自覚している。

だけど、柊君だって周りの女子がキャーキャー言ってても気付いてないよね…と、花は思う。

「まぁ、花に振り回される自分は嫌いじゃない。」
柊生は愛おしそうに花を見て笑う。
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