若旦那様の憂鬱
「…花。」
呼ばれた瞬間ぎゅっと抱きしめられる。

「会えて、良かった…。」
柊君は人目も気にせず抱きしめ離さない。

怒られるかと思ったのに、ただ戸惑い
どう反応していいか分からず固まる。

「ごめんなさい……勝手に居なくなって…
怒ってないの?」
私は柊君の腕の中で恐る恐る聞く。

「俺に怒る権利は無い…。
花に父親が来たことを隠したくて嘘を付いた。今、ここで花を見つける事が出来て本当に良かった。」

柊君の身体が小刻みに震えている事に気付く。

「…心配かけてごめんなさい。」
謝るしかすべがない。

やっと離れた柊君は、
真剣な眼差しで私を見下ろす。
「悪いけど…花の事を簡単に手離す事なんて出来ない。
逃げる時は俺も一緒だ。
茶トラだけ連れてって、なんで俺は置いて行くんだ?」
柊君は変な嫉妬を茶トラにし始める。

「しゅ、柊君は一橋旅館には欠かせない人だから…連れて行くなんて…。」
戸惑いながらそう言う。

「まぁいい。
俺の代わりに茶トラを連れて来たんだろ?
それなら許してやる。」
柊君は私の手をしっかり繋ぎ、荷物も持って歩き始める。

「あ、あの、柊君?どこ行くの?」
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