若旦那様の憂鬱
成人式の振り袖は、義祖母の大女将が昔着たと言う貴重な着物を有り難く譲り受けた。

始め、義父は花の為に新しく新調しようとしたのだが、花は、1日しか着ないのだからレンタルで構わないと伝えた。

それでもといろいろ悩んだらしい義父は、大女将に相談したところ、『私のがあるわよ』っと、言う事になったらしい。

その着物は、それはそれは物の良い品だった。

総絞りの白地に黒を背景に、大きめの花が散りばめられ金の刺繍が施ている手の込んだもので、それでいて大正ロマン漂う素敵な雰囲気を醸し出していた。

一目見て花は気に入って借り受ける事にした。

そうしたら、
大女将が花に貰って欲しいと言い出したので、恐縮しながらも大事にしようと思い、譲り受ける事にしたのだ。

『私は女の子が生まれなかったし、孫も男の子ばかりで残念に思ってたの。だから花ちゃんが貰ってくれて嬉しいわ。花ちゃんは私の初めての女の子の孫なのよ。』

血は繋がっていないのに、そう言ってもらえた事が嬉しくて、この家族の本当の一員になれた気がして涙が出た。

そんな大切な着物を花は成人式で着る事にした。

大変だったのはその後で、帯は新しい物をと義父が張り切り出し、気付けば仲居頭のトミさんや番頭のマサルおじさん、なぜか板長の松さんまで巻き込んで、 
気付いた時にはもう手の届かない所まで話が進んでしまっていた。

これはもう、着物のプロにお任せしようと花は傍観者になった。

あれ?
その帯って、結局一度も見てないけど?
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