若旦那様の憂鬱
「じゃあ、これですいません。花は連れて帰りますので、皆さんは二次会楽しんで。」

柊生は周りの皆に笑顔を向けて、花のコートを手から奪い、肩に羽織らせ先を急がす。

「じゃあ、ごめんね。またね。」

花は慌てて皆に分かれを告げ、柊生に押されるようにその場を離れる。

どうしてそんなに急かすんだろう?
と、花は不思議に思いながら、柊生の後ろを早歩きでついて行く。

外に出ると、今度は花の隣に回って転ばないように、車までゆっくりエスコートしてくれる。

「足元、気を付けて。」

「ありがとう…。」
わざわざ助手席の扉を開けてくれて、花が乗り込むのを見守ってくれる。

車内は冷えていて、身震いするぐらいだった。

「今温めるから、これ膝にかけて。」
エンジンをかけて、自分のコートを花の足元に置く。

さすがに真冬の雪の積もる夜に、膝丈のスカートは寒過ぎて、
 
「ありがとう。」
と言って、借りた柊生のコートを膝にかける。
まだ、温もりが感じられて心も温まる。 

ここでやっと目が合って、にこりと柊生が微笑むから花はホッとする。

「ごめんね。お仕事帰りなのにお迎えに来てもらって…。」

「いや、俺が行きたいって頼んだんだ。やっぱり来てみて良かった。」
どう言う事?と、花は柊生を見る。

「花の近くにいた男二人、花に連絡先聞こうとしてた。気付かなかったか?
もしかしたら写真を一緒に撮りたいって思ってたかも、花に好意があるのが見え見えだ。」
ぶっきらぼうに柊生がそう言う。

当の本人は、まったく気付いてなかったから唖然とする。
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