若旦那様の憂鬱
「ただいま…。」

おぼつかない歩きで何とか玄関まで辿り着く。

「おかえりなさい。」
丁度、夕飯を食べに戻っていた母が顔を出し、返事をくれる。

「あら、花、顔が真っ赤。
そんなに外寒かったの?
先にお風呂入って温まったら。」

「…うん、そうする…。」

赤いのは柊君のせいだけど…
そう思いながら、
ボーっとした頭で花は返事をして、
おもむろにお風呂へ向かって行った。

湯船で温まりながら考える。

柊君がなぜ私にキスなんか⁉︎

酔ってた?

ううん、真面目な柊君が運転前に飲酒なんて有り得ない。

彼女と間違えた?
そんな訳ないか……。

何が起こったの⁉︎頭を抱えて考える。

ただただ、恥ずかしくて思い出すだけで心拍が上がってしまう。

それから1週間は夢だったんじゃ無いかなぁ
とボーっと過ぎ、

2週間目に柊君にこのままずっと会えなくなるのかと不安になる。

3週間が過ぎ、
私から動かなきゃ今までのような2人には、
戻れないんじゃないかと悩み途方に暮れる。

その間、柊生は一度も夕飯に顔を出す事もなく…メールも電話も無く…

なんの接点のないまま、
お見合いの前日になってしまった。

「お母さん、柊君って今、忙しいの?」

「最近は通常勤務に落ち着いたから、
定時で帰ってるわよ。
柊生君がどうかしたの?」

「全然、ご飯食べに来ないから……
元気にしてる?」

「別段変わった様子は無いと思うけど?」

さすが柊君、
何があってもポーカーフェイスは崩さないんだなぁと他人事のように思う。

結局、私だけがアタフタしてるのかもしれない。柊君にとってはどうって事ない出来事だったのかも…。

私にとっては、
初めてのキスだったんだけど…
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