イケメンエリート、最後の独身


 謙人は待ち合わせの五分前にエントランスに着いた。でも、萌絵はすでに グランドピアノの奥にあるソファに腰かけていた。
 儚げに見える萌絵の背中せいで、謙人の愛するがゆえの強烈な保護本能がむっくりと目を覚ます。
 謙人は大きく深呼吸をした。
 自分の中で暴れ回る手に負えない感情を操る事ができるようにと、気合を入れ直す。いつもの余裕のある自分を忘れるなと。

「萌絵ちゃん…」

 普通の声量で呼んだつもりが、もはや声が震えている。謙人は自分のナーバスさにげんなりした。

「け、謙人さん、お久しぶりです…」

 萌絵の瞳は潤んでいた。謙人の冷たい反応にずっと心を痛めていたに違いない。
 謙人は萌絵の可愛らしい顔を見て、心の奥の方でもうすでに降参していた。何に対してかは分からないが、白旗を大きく振っている。
 自分のか弱さに笑いさえこみ上げる。


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