太陽と月の恋
駅の方から出てきた人々とは逆行して歩く。
そうか、みんなはこれから予定があるのか。

駅に向かう人間は端に避けられるようだ。

飲食店の店員は頭にサンタ帽を被りながら、今日中に売り切らないといけないチキンを声張って販売してる。
有名なケーキ屋さんは長蛇の列。

いつもより高校生も多く、3人の女子高生は「女同士でもいいじゃん」とアピールするごとく腕組んで闊歩していった。

駅に到着すると、いつもより人が多いことにまた驚く。
東口から西口へと繋がる通路をただ無心で歩く。

しかし西口に出ると、商業施設が少ないからかいつもと変わらないように感じた。
西口から徒歩2分。
ロータリーの向こうに見えるビルの3階と4階からは光が漏れ、エアロバイクがズラリと並んでいる。

今日はまだ人が少ないかな。

そんなことを考えながら向かっていると、ふとそこに人の姿が現れた。

私はなぜかその姿を見つけて、少し喜んだかもしれない。

その人もウェットシートで器具を拭きながら外の世界に視線を投げてきた。

次の瞬間、その目は地上を歩く私を見つけ、明らかに「あっ」と驚いた口の形になった後、グッと口角が上がって、その分目が弓のようにアーチ状になって、手を振ってきた。

私はどんな顔をしただろう。

応えるように少しだけ手を振った。

なんだろう、まだ何も始まってないのに。

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