太陽と月の恋
信号を渡ると、駅前の雰囲気はそこでブツッと打ち切られ、昔からの住宅地に変わる。電灯の心許ない光のみが道路を照らす。
私のアパートはこの区画の中、迷いそうな道順を経て辿り着く場所にある。

拓郎は結局最後までろくに覚えなかったような気がする。

「河辺さん家はどっち?」
「俺ん家ね、駅前の大通りずっとまっすぐ行った方なんだよね」
「遠いじゃん」
「うん、別にこんくらい全然いいっす。普段チャリだし」
「今日は?」
「駐輪場に置きっぱ」
「ごめん」
「取ってから帰るよ」

私の家が近付いてきて、繋がれた手を改めて意識する。

離したくないな。

ふとそんな風に思ってしまった。

私はこんな風に恋に落ちるのかもしれない。

とうとう淡いピンクベージュの建物が30mほど先に見えた。

私たち、このままどうなるんだろう。

この繋がれた手は、どうなるんだろう。

明日になったらまたゼロに戻っちゃったりしないかな。

その顔を見上げると、彼も私の顔を見た。
その表情には珍しく笑顔がなく、心が読めず、私は諦めてまたアパートへと視線を戻す。

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