独占愛~冷酷御曹司の甘い誘惑
9.嘘と綻び
朝霞さんの帰国から瑛さんの帰りは、日増しに遅くなっていった。

けれど詳細な事情は教えてもらえず、条件という盾が邪魔をして詮索できない。

彼の口数は、忙しさによる疲れも相まってか、ぐんと少なくなった。

余計な事柄まで尋ねてしまいそうな私は、ますます気安く話しかけられなくなった。



入浴を終えた木曜日の夜、寝つけず寝室で文庫本を読んでいると、瑛さんが帰宅した音が微かに聞こえた。

起き上がり、リビングに向かうとなぜか不機嫌そうな視線を向けられた。



「お、お帰りなさい」



「ただいま。なんでこんな時間まで起きてる?」



「少し、寝つけなかったから」



なぜこんな詰問口調なのか、わからない。

彼は長い指で緩慢にネクタイを緩め、鬱陶しげに長めの前髪をかき上げる。

たったそれだけの仕草なのに、見惚れるほど色香がある。



「俺は離婚する気はないし、妻の不貞は許さない」



唐突に言われて面食らう。



……なにを言っているの?



「離婚、不貞って……」



戸惑う私に剣呑な視線を向け、自身のスマートフォンを取り出す。

なにやら操作して、私に液晶画面を見せる。



【梁瀬副社長夫妻、やはり離婚は秒読みか? 妻の昼間の密会!】



派手な見出しに息を呑む。



「なぜ、一貴とふたりきりで会っていた? 手まで握って……!」



鋭く睨みつけられ体が強張るが、責められている内容が理解できない。



「なんの、話?」



「とぼけるな」



怒声に肩がビクッと跳ねる。
< 115 / 174 >

この作品をシェア

pagetop