【砂の城】インド未来幻想
「待ってて、お願い、ナーギニー。わたしは本当に選良披露の代表になんてなる気はないの。今からシャニ様に直談判してくるわ。きっとあなたは次点の筈。わたしは辞退をして、あなたを格上げしてもらうようにお願いするから……だから少しだけ待っていてちょうだい」

「シュ、シュリー?」

 きつく包み込まれたシュリーの腕の中で、ナーギニーもようよう戸惑い出した。あんな失態を演じてしまった舞踊で、次点などとは到底考えられない。けれど必死なシュリーの想いを得て、彼女は心満たされるということが、こうも心地良いものなのかと気付かされた。見返りなど求めない清廉な愛情に触れ、胸の奥底からじんわりと発する熱に、全身がとろけてしまいそうな悦びを覚えた。

 やがて周囲の人々が、優勝者であるシュリーの存在に気付いたようだった。ナーギニーを抱え込んだままのシュリーは群衆から祝福され、シャニの待つ墓廟正面へと貫かれた小道を、皆の押し出す手によって流され始める。しかしその滑らかなせせらぎと、四方から降り注がれる拍手の渦は、再び口を開いたシャニの咳払いによって直ちに()き止められた。


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