【砂の城】インド未来幻想
 ナーギニーは目を(つむ)ったまま、驚き走り出したラクダに連れ去られている。その隣を走るラクダの上からシュリーは後ろを振り返ったが、見えた視界は無残にも喰い殺されようとするラクダ四頭と三人の人型だった。けれど思った以上にドールの数は多く、ご馳走にありつけない哀れな捕捉者が、二頭を追いかけ迫りつつあった。ラクダとドールでは確実にドールの方がスピードは勝る。ましてやこちらは人一人乗せての逃亡だった。疾風の如く追いついたドールは、ついに二人に襲いかからんとした――その時――

「お願いっ、出てきて!!」

 ――え――?

 その叫びに咄嗟に開いたナーギニーの瞼の先には、夜の虚空へ懇願するシュリーの横顔が見えた。疑問は音声にはならず、代わりに地響きのような轟音が耳をつんざいた。同時に前方の砂が盛り上がり、大きな黒い塊が一気に空を貫いていく。

 高さはタージ=マハル程もあろうかと思われるその物体は、シュリーの呼びかけに応えて姿を現したのだろうか?

 目を疑うばかりの光景に、ドール達は動物本来の怖れを感じて、萎縮し平伏し逃走した。

 そして驚愕したナーギニーも、シュリーに問い(ただ)すことも出来ぬまま、いつしか気を失っていた。

「ありがとう」

 シュリーは黒い塊に礼を言い、ラクダの背を降りて二頭の手綱を引いた。颯爽と進むその姿が見えなくなった頃、それはもはや影すらも存在せず、ただ砂と、三人と、四頭の屍骸が、なだらかな大地に転がるのみであった――。


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