【砂の城】インド未来幻想
「危ないところだったわ……でもドールに襲われる一歩手前で、大きな竜巻が起こったのよ! みんなすっ飛んでいっちゃったわ」

 向こうを向いたまま元気に答えたシュリーは、昇り始めた太陽の眩しさに手を(かざ)したが、そのままナーギニーを振り返ることはなかった。

 ――竜巻……? あの大きな黒い物が? シュリー、嘘をついているのかしら? それとも……――

 問いかけたかったが、もはやあれが現実であったのか、それとも夢であったのか、ナーギニーには判別がつかない程に不透明な記憶となっていた。ましてやあんなに大きな生き物が存在して、シュリーに呼ばれて出てきたなどとは到底思えない。きっと夢であったのだ――ナーギニーはそう信じることにして、同じく光の地平線に目を細めた。

「この分ではちょっと時間までに辿り着かないかもしれないわね……途中少しラクダを走らせることになるかもしれないから、今の内に良く休んでおいてね、ナーギニー。あ、お腹空いたでしょ? わたしの鞄の中にドライフルーツが入っているから、良かったら食べて。それから……ごめんなさい。あなたの荷物は助けてあげられなくて……」

 シュリーはようやくナーギニーへ向け言葉を発したが、明るく努めていた声色が重くくぐもったのは、きっとあのマントの紛失を意味する謝罪なのだと気付かされた。けれどナーギニーは失望することなどなく、おもむろに自分の上着の合わせに手を差し入れ、(ふところ)から見覚えのある包みを取り出した。――あの受賞の後、シュリーが渡してくれたマントを包む布地だった。


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