【砂の城】インド未来幻想
 ジープはそのサンガムの手前で急にスピードを緩めた。やがてまさしく二つの河が合わされた真中らしき場所で車輌は停められた。エンジンも切られ、ただ静寂だけが辺りを包み込む。使者達は少女を振り向くこともなく、また車外へ降りる気配も見せない。ナーギニーには次に何が起こるのか、何が始まるのか、ただ不安だけが心に広がっていった。

 そうした間もなくにふと砂の流れるようなサラサラとした音が耳奥に響いた。スモークの貼られた暗い窓の外へ目を向ける。その眼下の砂がまるで自分達から逃れるように、放射状に散っていくのが微かに見てとれた。周りには風の吹いている様子もないのに、あたかも砂が命を持ち、自身の意志で逃げ去ろうとしているようだ。その勢いは徐々に大きく激しくなり、飛び退(すさ)る砂は窓の高さまで視界を(はば)んでしまった。いや、砂が吹き上がったのではなく、車輌が沈み始めているのだと少女が気付かされたのは、そう時間の経たない頃であった。大地に呑み込まれるように、ジープごと砂に絡め取られていく三人。どれだけ深く潜ったのだろう、すっかり真っ黒になってしまった窓を見つめ、ナーギニーは数回息を呑んだ。それでも数分の内に車窓は薄っすらと光を取り戻し、座席の下から着地を示す僅かな振動が感じられた。


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