【砂の城】インド未来幻想

[祭礼]

 この一週間は何事も起きぬまま、少女にとっては「慌てふためく」ということがどんな様子かも気付けぬ内に、矢の如く光の如く時は飛び去っていった。

 アグラの街はいつになく活気に満ち、一体何処から集まったのかと思わせる程の人々で溢れ返っている。市場の喧騒はヒマラヤの峰へと木霊し、それに応えるかのように雄大な山々が久方振りのシルエットを顕わにした。

 ぼろ(きれ)(まと)った漆黒の民のヴァーラーナスィーへの長い巡礼は、今日は何処へ行っても見掛けることはない。成人した男女の殆どが祭りの準備に駆り出され、特にタージ=マハルの近辺は賑やかにざわめいていた。

 ナーギニーの兄も父の商売を手伝わず、早朝から墓廟の清掃に勤しんでいる。このところ穏やかな気候が続いているが、その中でも麗らかな陽光に照らされるタージ=マハルの煌びやかさは、まるで今日から始まる三日間の成功をほのめかしているようだ。


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