【砂の城】インド未来幻想
◆ 第六章 ◆

[嫉妬]

 『砂の城』滞在三日目――二度目の朝。

 あれから満たされた気持ちに身を(まと)われたナーギニーは、初日よりも安らかな眠りを知ることとなった。会食後の酷い仕打ちも、今抱えている全ての不安も、もちろん消し去られた訳ではないが、僅かな時間でも心を自由に出来たことが、此処での救いとなったのだろう。

 日の出と共に自然と目覚め、昨夜思いついたことに早速取りかかった。残しておいた夕食の小皿から、カシューナッツを数粒摘まみ上げる。掌で転がしながら「これならあの子も食べられるだろうか?」と思案して、朝食のノックに邪魔されぬ内にと早々にバルコニーへ踊り出た。手すりの下の窪みにそれをそっと置き、しゃがみ込んでじっとリスを待った。

 朝陽が東南と東北の尖塔(ミナレット)の間から、幾重にも重なる光をターバンのように巻き付け現れた。その刹那、視界の中に小さな茶色い揺らめきが映し出される。昨朝来てくれたシマリスだろうか? ナーギニーは息を殺して瞳の先に集中した。


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