【砂の城】インド未来幻想
「此処へ来てからの数日間、侍女になりすましてあらゆる人物に接触を図ったの。侍女に家臣、時々外へ出ていく侍従や使者、街で働く民衆にも寵姫(ちょうき)候補の少女達にも……全てが感情を表に出さず、最低限の返答しかしない……でもそれは魂を失っているのではなく、何処か奥の方へ封じ込められているのだと気付いた。だからナーギニーも自我を奪われた訳ではないわ。今もきっと心の中でもがき苦しんでいる筈。感情を示したいと、想いを伝えたいと……きっとあなたに訴えている筈よ」

「それがシャニ様の仕業(しわざ)だと……?」

 静かな寝息を立てる少女の寝顔を見下ろす。シュリーは前方を向いたまま、そんなイシャーナを一瞥(いちべつ)して口を尖らせた。

「もうあのシャニに「様」なんて付けるのはおよしなさい。あなたはまだ乗っ取られてはいないけれど、危うい立場であることは確かよ。わたしの推測では、シャニが人を操る為の条件は三つ。あなたも飲んでいたでしょ? 琥珀色の液体を。プラス必要なのは、シャニの唇が身体の何処かに接触すること、最後にその眼を見つめること……この三つの経緯がなされた後、人々は自我を出せなくなった。ナーギニーの話では、寵姫候補の少女達も、庭園散策の初日にシャニから手の甲へ口づけをされたというわ。その時偶然にもナーギニーだけがそれを受けずに済んだけれど……多分そのようなことが先の王室でもあったのではないかと」


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