【砂の城】インド未来幻想
 ナーギニーとその家族五人は、照りつける太陽の下を静かに進みながら、やがて目的地に集まる黒い塊が「人」と判別出来る距離まで近付いていた。

 ナーギニーの大きな、しかし外界など直に通したことのない純粋な瞳は何を見たのだろうか。そして蓮のように開かれた小さくふくよかな耳は――。

 『圧倒』――ただ一言でしかなかった。

 様々に着飾った老若男女。美しい民族衣装を身に着けた若い女性も居れば、汚れた麻を巻き付けただけの白髭の聖者(サドゥー)も居る。シヴァ神を祀った大きな神輿(みこし)が、砂埃を上げながら若い男衆に担がれ、それは人々の渦の中へ消えてゆき、また現れるという輪廻の繰り返しを行なった。偉大な白銀のタージ=マハルは、ナーギニーにとって窓から見える風景の一部であり、誰がこのように大きく立派であると想像し得ただろう。見たこともない動物・見たこともない楽器・見たこともない食べ物……更に否応なく吸い込まれてくる音楽・言葉・笑い声……身を取り巻く熱気だけでも眩暈(めまい)を起こしかねない状況に加え、矢継ぎ早に重ねられる強烈な初体験の全ては、少女の(つや)やかな(おもて)をつぶさに蒼褪めさせた。


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