【砂の城】インド未来幻想
 ナーギニーは廟の外壁をぐるりと巡りながら、過細い声でシュリーの名を呼び続けた。初めに見えた地下の空洞がもう一度現れた時、彼女を見つけられずして一周してしまったことに気付き、途端途方に暮れ立ち尽くした。

「シュリー……」

 小さく呟いたそれを最後に、もう言葉は発しなかった。大粒の涙が硝子(ガラス)玉のように幾重にも頬を伝う。次第に肩が上下に波打ち、すすり泣きが唇を震わせた。

 生まれては落ちる涙は止め()なく、もはや止める方法も分からなかった。きっと数秒・数分である筈なのに、何時間も泣いているような錯覚に陥ってしまう。それでもナーギニーはひっそりと泣き続けた。はぐれたシュリーを置いて帰る訳にもいかず、また涙に溺れる(まなこ)は、この暗がりの中で仮宿舎を探すにもおぼつかない。袋小路に追い詰められた小動物のように彼女は泣きに泣いた。泣き声でシュリーが気付いてくれれば……その望みを一心に注いだ――。






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