【砂の城】インド未来幻想
 ナーギニーだけでなく客席に坐した全ての人々が、シュリー一人に釘付けとなっていた。盛――そして、終。彼女の動きが徐々に緩やかになり、口三味線(ソルカットゥ)の不思議な音色が消えかけようとしたその時、其処は既に喝采の嵐だった。

 =シュリー! シュリー! シュリー! シュリー!=

 民は総立ちとなってやむことのない拍手を贈り、アンコールを求めるようにシュリーの名を繰り返し叫んだ。ライバルとされる少女達も、我を忘れて自然に手を打ち鳴らす。踊りを終えたシュリーは息を弾ませ、再び深い一礼を捧げた。退場する彼女へ魅了された若者達が集まり、シュリーをその中へ取り込んで去り、騒ぎは少しずつ鎮まっていった。

「あれほど美しくお前も踊れれば良いのだけどねぇ。ナーギニー、あんな娘なんかに負けるんじゃないよ! お前の方がどれだけ美しい姿をしているのか分かりゃあしないんだから」

 母親は僅かに負け惜しみを含んだぼやきを吐き出し、励ましを込めて少女の背中をポンと叩いた。あたかもそれを自身に言い聞かせるように高らかと笑う。けれどシュリーの舞踊はそんな風に笑い飛ばせる程、簡単に追い抜ける技量とは思えなかった。ナーギニーはあの素晴らしい舞に感嘆と感動の想いを溢れさせながら、その裏側で酷く憔悴した。この舞踊大会で勝ち残り、寵姫選別期間のため砂の城で過ごせるのはたった一人だ。となれば……もはや優勝はシュリーに決まったも同然と思われた。


< 68 / 270 >

この作品をシェア

pagetop