【砂の城】インド未来幻想
 二人は天幕から出た途端、傾いた太陽(スーリヤ)の光に目を突かれ、数秒何も見えなくなった。と、同時に終わりを知らせる笛の()が聞こえ、背の低い少女が退場し……辺りはさざめきに包まれた。

 ナーギニーの出番を示す、さざめきだった。

 =次は三十二番、ガネーシャ村、ナーギニー=

 二人の男が砂を(なら)し、大声で告げて足早に退散する。

「行ってらっしゃい、ナーギニー!」

 母親の手が力強く背中を押し出し、ナーギニーは少々よろけながら半ば強制的に舞台へ放り出された。瞬間会場は男共の歓声に埋め尽くされ、地響きのような声の振動は、空気の針となって彼女の肌を刺し貫いた。沢山の好奇心を含んだ視線に耐えながら、舞台の中央へ静々と歩み寄る。タージ=マハルへ正面を向けたナーギニーは、基壇上の玉座に腰掛ける不気味なシャニの姿を、出来るだけ瞳に映さないよう深々と礼を捧げた。

 (こうべ)を垂れたナーギニーに、シャニは大層満足げに頷いた。〝やっと見つけた。やっと手に入れることが出来る。この世で最も美しい娘よ……。〟シャニの真っ赤な軟体動物にも似た舌が、唇の端をそろりそろりと舐めていた。


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