婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

 それから五年があっという間に過ぎた。
 必死に仕事をこなしてきた私は、女性治癒士をまとめるチーフとして勤務していた。他にも男性だけのチームや魔物討伐の同行が専門のチーム、病理専門、外傷専門のチームがある。私にはよくわからないが、治癒魔法を使う際にも得意分野があるそうだ。

 私は女性治癒士を希望する患者様、特に貴族のご令嬢などが多いのだけれど、そういった特殊な希望に沿うためのチームをまとめていた。

「ラティシアさん、軽傷の患者様の治療が終わりました。このまま休憩に入ってもいいですか?」
「ユーリ、お疲れさま! ええ、片付けたい仕事があるから、先に休憩入って大丈夫よ」
「ありがとうございます。ではお先に」

 今は翌月の希望休をまとめて出勤日を調整している。治癒室が休みになることはないので、みんな交代で休暇を取るのだ。

「ラティシアは休憩に行かないのか?」

 パズルのように出勤日を組んでいたけれど、聞き慣れた声に手を止める。
 いったん思考を止めて目の前の紙から視線を上げた。王妃様の診察から戻ったエリアス室長が、穏やかな瞳で私を見つめている。

「はい、今はユーリが休憩中なので戻ってきたら行きます」
「そうか、では——」

 いつものなんでもないお昼時の会話をしていたが、突然ひとりの騎士が治癒室に飛び込んできた。

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