婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

「バハムート! お願い!」
《我に任せろ》

 一陣の風とともに現れて、ドラゴンブレスを一息吐いた。

「ギャアアアアアォォォォ!!」

 その威力は、地面を焦がしただけでなく、レッドグリズリーの骨まで灼いた。
 断末魔の絶叫が耳に残るが、目の前にはもうあの巨体の欠片もない。本当に炭すら残らず、跡形もなく消え去った。

「え……? なに、この威力。え、もしかして神竜になったから、パワーアップした?」
《むう、そうらしい》

 以前とは比べ物にならないドラゴンブレスの威力を目の当たりにして、ジルベルト様が死ななくて本当によかったと思った。

「なんと……神竜の力はすごいな! しかし、神竜はフィルレス殿下のものではないのですか?」
「あはは、バハムートは私と友人なんです。だから危ない時は助けてくれるのです」
「なんですと……!!」
《ラティシア、こちらに来い》

 オリバー様の質問攻めから逃れたくて、すぐさまバハムートのもとへ向かう。バハムートは近くにあった木の根元をじっと見下ろしていた。
 そこにいたのは、怪我を負った子犬だった。息も弱く、怪我をしているのか血まみれになっている。

「この血の匂いにつられてレッドグリスリーが来たのかも。オリバー様、この子犬を連れて帰ってもよろしいですか?」
「そうですね、怪我も治して綺麗にしてやらないと、また魔物がやってきては民に被害が出てしまう。私が抱いて帰りましょう」
「ありがとうございます、怪我は私が治します。元気になったら、また野生に返すか飼い主を探します」
「そうしましょう。私も協力します」

 そうして、弱った子犬を保護したのだった。

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