婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

「フィルレス殿下は、いつもよく努力されています。どんなに辛いことも、どんなに悔しいことも、その胸のうちに抱えて弱さを見せません。ですが……つらい時は弱音を吐いたっていいのですよ」
「弱音など、僕には……」
「私、実は義妹に婚約者と実家を奪われて追い出されたんです。なかなかの経験をしてきたので、きっとフィルレス殿下の愚痴くらい聞けると思います。これでもフィルレス殿下より年上なので、姉に話すつもりでなんでも言ってみてください」

 毒症状からみて、きっと腹部の痛みは相当なものだったろう。それをうめき声ひとつ上げずに耐えていた。
 殺されかけたというのに、そんなことは微塵も感じさせない振る舞いをしている。
 婚約破棄の時だってそうだ。あんな大勢の貴族たちの前でなにもかも踏み潰すように切り捨てられて、なにも感じないわけがない。

 私はただ、心優しい孤高の王子に心から笑ってほしかった。

「それに治癒士には守秘義務があって魔法契約で宣誓しているので、もし破ったら治癒魔法が使えなくなるんです。だから安心して吐き出してください」
「……実は僕、あの皇女にまったく好意を抱けなかったんだ」
「え!? そうだったんですか!? よく隠していましたね。全然わかりませんでした」
「うん、婚約破棄してくれてむしろホッとしている」

 フィルレス殿下の死んだ魚のような目がおかしくて、思わず笑いがこぼれる。婚約破棄についてはフィルレス殿下にダメージはないようだ。

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