婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

 カールセン領には妃教育が始まる前に、一度訪れていた。その際に両親の墓参りもできたし、領地の管理人にも挨拶ができた。

 結婚式の準備は臣下たちが進めているので、私たちは衣装合わせがメインでそこまで忙しくない。
 少し考えた後でフィル様が口を開いた。

「……うん、いいよ。それなら、僕も一緒に行こう」
「あの、できたら一泊したいのですが、政務は大丈夫ですか?」
「ふふっ、一泊どころか一週間くらいなら問題ないよ。では調整するから出発は五日後でいいかな?」
「はい! フィル様、ありがとうございます!」



 こうして久しぶりに、我が領地へと旅立った。
 移動はもちろんバハムートだ。一泊しかできないので移動時間を極力削りたかった。

「カールセン領には何度か来たことがあるけど、ラティと一緒だと見える景色が違うね」
「そうですか? あっ、あの山! 私がバハムートと出会った場所です! あっちの山はよく魔物の討伐で来てました!」
「そうか、幼い頃のラティもかわいらしかったのだろうね。ふふっ、こんなに喜んでくれるなら、どこへでも連れていくよ」

 私を抱き込むようにフィル様が座って、耳元で囁かれた言葉はじんわりと私の心に浸透する。愛しい人の優しい言葉に、私は笑顔を返した。

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