婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

「まず、この二十四時間勤務がおかしいです! いくら専属治癒士でも休みは必要です!!」
「うん、なるほど。他には?」
「それから、ここの夜会にはパートナーとしてドレスで出席するとありますが、これでは治癒士の仕事ができません!!」
「ああ、そうか。まだある?」
「ここもおかしいです! 身も心も完全に治療するってなんですか!? 心の治療は専門外です!! こちらは専門の治癒士に診てもらってください!!」
「うーん、それは……」

 肩で息をしながら、おかしなところを片っ端から指摘していった。
 フィル様はシュッとした顎に手を添えて、真剣な表情で考え込んでいる。さすがにこの条件がおかしいと理解してくれたのだろうか?

「ラティ」
「はい」
「言いにくいんだけど、今の申し立てはすべて受けつけられない」
「なぜですか!?」

 そんな馬鹿な話があるかと震えていると、今度は一枚の用紙を取り出してくる。
 嫌なことにその紙には見覚えがあった。ひらりとひっくり返された上部に【宣誓書】と書かれている。

「これは()()()()契約書の内容を遵守するという宣誓書だ。つまり僕は契約が続く限り、専属治癒士としての報酬をラティに払い、婚約者として扱うと神に誓ったことになる。そしてここを読んでくれる?」
「——いかなる場合も契約書の内容を変更しない」
「そう、だからとても残念だけど、僕はラティのお願いを聞くことができないんだ」

 そう言って、フィル様は神々しい微笑みを浮かべる。あの時、この紙切れが自分の首を絞めることになるなんて、思いもよらなかった。

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