婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

「すごいな……これがラティの治癒魔法か」
「はい、治癒室で鍛えてきたので、効果は保証します」
「うん、それはもう知ってる」

 つつがなく治癒魔法をかけ終えて、白い幻想的な光は収まっていく。
 
「フィル様、これで回復は終わりです」
「まだ」

 治癒魔法のために繋いでいた手を放そうとしたら、ぐっと握り込まれてしまった。フィル様を見上げると、うっとりしてしまいそうな澄んだ空色の瞳に囚われる。
 だが、私は学習したのだ。この外見に騙されてはいけないと。冷めた視線をフィル様へ向けて言葉を続けた。

「とてもお元気そうに見えるのは私だけですか?」
「心の傷が見えるなら今すぐ見せてあげたいんだけどね。ああ、僕の胸の音でも聞いてみたらわかるかな?」

 そう言ってフィル様は私を引き寄せて、その胸に抱きしめた。ふわりと石鹸のような爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。私の耳はしっかりと押さえつけられ、フィル様の心臓の音を拾っていた。
 幾分心拍が早いが、この程度なら病ではなさそうだ。

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