婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。

「っ!!!! ジルっ!!」
「イライザ、待て! アイツはもう助からん!!」
「嫌っ! そんなわけないわ!! ジルはこの国でも五本の指に入る騎士なのよ!」
「イライザ!!」

 イライザ様とアリステル公爵が大声で怒鳴り合っている。バハムートはジルベルト様が放ったカウンター攻撃で動けなくなっていた。

「ジル! ねえ、起きてよジル!!」
「イラ……イザ……ごめ……」

 ジルベルト様の掠れた声が僅かに聞こえたが、瞳は閉ざされてしまった。

「やだ……やだやだやだ!! ジル! わたくしは貴方がいないと嫌よ!!」

 イライザ様の魂の慟哭に、私は足を止めた。
 いつも勝ち気で、いつも自信たっぷりで、フィル様と互角に計略を練るイライザ様が泣き叫んでいる。

「ねえ、わたくしが本当に愛するのは、貴方だけなの!! お願い、目を開けて!!」

 ジルベルト様の手がパタリと地面に落ちて、動かなくなった。
 ハッと我に返り、素早く患者の状況を把握する。

 バハムートのブレスは火炎系だった。魔法や打撃の防御結界は鎧にかかっていたけれど、ドラゴンブレスには効果がない。だからモロにダメージを受けている。
 全身の七割を超える火傷、ところどころ皮膚が炭化している。もしかしたら、気道も炎でやられて呼吸もできない状態か。

 ——それなら、一刻の猶予もない。

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