麗しの王様は愛を込めて私を攫う
 翌朝。

「ジェームス、養子に行ったんですか?」

「そうなのよ。是非にって言われちゃあね、ウチは十人も子供がいるし正直助かった所もあるの。それに男爵様なんて、平民からすればかなり良い話よ」

 隣のおばさんはケラケラと笑って話しをする。

 私がジェームスから告白されたのは昨日だ。
 そして今朝、彼は養子に行ったのだと聞かされた。

 もしかして昨日の告白は、養子に行くと分かっていたから……?

「本当、ビックリよね。昨晩、突然使者が来てね、何でも王族からのお話だって言うから断るなんて出来ないしね。まぁ断らないけどね」


 別れの挨拶も出来なかった。
 そんな急な話しもあるんだなぁ……。


 その日、また花束が届けられた。カードがいつものようについている。

『いつも、あなたの側に』

「……なんか、怖っ!」

 誰かも分からないのに側にいるの?
 私、そういうのは苦手だよ?


「メアリーはその人から愛されているんだねぇ」
「ええっ! 知らない人がこんな事書いてきたら怖いだけだよ、おばあちゃん」

「そうかい? でも、赤い薔薇なんて愛してる人にしか渡さないんじゃないかねぇ」

 カードを読んで嫌な顔をしていた私に、おばあちゃんは薔薇を花瓶にいけながら、こんなに綺麗な薔薇の花なんて私はもらったこともないねぇと楽しそうに言った。

 毎回なんのタイミングか分からないけど送られてくる真っ赤な薔薇とカード。
 いい加減名前ぐらい書いて来て欲しい。
 そうでなければお礼も言えない。

 どうして教えてくれないの?

 あなたは一体誰なんですか?


◇◇


 ジェームスが男爵家に行き、しばらくすると、私はまたダイアナと仲良くなれた。


「メアリー見てよ! ほら、リシウス様カッコいいでしょう!」

 最近話題のこの国の第三王子リシウス様。

 その絵姿を私に見せながら、ダイアナは満面の笑みを浮かべる。

 絵姿に描かれているのは、こちらを向いて微笑みを浮かべる美しい王子様。

 整った顔立ちにキレイな銀髪。神秘的な青い瞳。背景には豪華な金色と真紅の薔薇が描いてある。

(ん? でも、この顔……何処かで見たことあるような?)

「この人、この辺に来たことあるかなぁ……?」

 見覚えがあるような気がしてダイアナに聞いてみた。

「あるわけないじゃない、こんな田舎の村になんて、王子様は来ないわよ! あ、メアリー、もしかして、リシウス様の絵姿欲しいの?」

 ううん、要らないと私は首を振ったのだが、ダイアナは聞く事なく「二枚持ってるからあげる。素敵よねー」なんて言って渡してきた。

「これダイアナにもらったの、おばあちゃんにあげる」

 私はリシウス王子様の絵姿をおばあちゃんにあげた。

 綺麗な人だけど、何故か怖く感じたのだ。

 おばあちゃんは喜んでくれて、絵姿を居間に飾った。その横にはなぜかお花を添えている。

 おばあちゃん……居間に飾られたら、嫌でも毎日目に入るよ。
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