麗しの王様は愛を込めて私を攫う
 つい先日、城で起こった悲劇を思い出し、しばし遠くを見ていた私に、リシウス陛下がメアリー様の下へ行くように命じられた。


「アダム、先に行って様子を見て来て」

 まだ臣下達の話しは終わりそうもなかった。

 メアリー様にはドレスをお仕立てすることになっており、この時間は仕立て屋を呼んでいる。
 もちろん職人は女性で、心配する様な事は何も無い筈だ。それでも、気にかかられるのだろう。

「分かりました」

 私は一礼するとその場を後にして、メアリー様のお部屋へと急いだ。



 何故かメアリー様の部屋の前に侍女と仕立て屋の女が立っている。皆、血の気の引いた顔をしていた。
 これは……。

「どうかしましたか?」
「私どもがお食事を取りに行って戻りましたら、メアリー様はお部屋から居なくなられておりました。どこにもいらっしゃらないのです」

「……本当に?」

 その言葉に私の血の気も引いた。


 メアリー様には足枷が付いていた。抱き抱えでもしなければ連れて行く事は難しい。
 それに影がいる筈だ。

「他に、ここに誰か来ましたか?」

「私どもは見ておりませんが、食事をとりに行った際、すれ違ったメイドがスターク公爵ザイオン様を庭で見かけたと言っていたのを聞いたのです」

「ザイオン様を?」

 すぐ側にある庭は、誰もが入れる場所では無い。 

 誰かが手引きしたのか、そもそもこの部屋に誰か居ると分かって来られたのか?
 連れ去られる理由も分からないが……。

 侍女は小さく震えていた。この事をリシウス陛下が知ったら大変なことになってしまうと恐れているのだ。

「影はどうしたのですか?」
「先程から何度呼んでも出て来ないのです」
「何故?」
「分かりません」
「……そうですか」


 ヤバい……リシウス陛下が来られる前に何としても探し出さなければ、どうなる事か。

 いや、隠し事などしてはならない。
 すぐに知らせる方が賢明だ。


 しかし、スターク公爵ザイオン様か。
 確か御令嬢はリシウス陛下に懸想していたはず。 
 御令息の方はどうだったか……急ぎ調べて見なければ。
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