麗しの王様は愛を込めて私を攫う
 薔薇の花をもらってから二週間が過ぎた。

 世間ではリシウス陛下の婚約が決まり、もうすぐその方が城へお越しになるのだという話題で持ちきりだ。


 その日、仕事が終わり家に帰った私の下へ村長さんがまた届け物を持って来てくれた。

 この前よりも大きな箱の中には、青いドレスが入っていた。

 リシウス陛下の瞳と同じ色のドレス。

 今までは貰ってもそのままタンスに仕舞っていたけど今日は何だか着てみたくなり、一人でも着れる様になっていたドレスを、体を清めた後に着てみた。


 ドレスは柔らかく、とても着心地が良い上質な物だった。

「何だかお姫様になったみたい」

 嬉しくなってクルリと回ると、ドレスの裾がフワリと広がる。

「キレイ……」

 そのままベッドに腰掛けてドレスを眺めていた。

 リシウスは婚約が決まったと聞いている。
 それなのに、なぜ私にドレスをくれたのだろう。



「でも、私なんかに似合うのかしら」


「よく似合ってるよ」

「……?!」

 いつのまにか窓際に、この国の王様が立っていた。


「リシウス陛下……どうして?」

「君を迎えに来た」

 そう言うと、リシウス陛下は私の体を横抱きにする。
 落ちそうな気がしておもわず彼の腕を掴んだ。

「あ、あなた、婚約するって」
「ああ、そうだよ」

 久しぶりに聞いた彼の優しい声が胸を打つ。

「だったらこんな事」

「僕を好きだと泣いていただろう?」

 えっ、と驚いて彼を見上げると、リシウス陛下が甘く優しげな顔で私を見つめていた。

「婚約は君とするんだ。はじめに言っただろう? 僕は君を妻にする為に王様になったんだって」

 そう言った彼の唇が、私の額に軽く触れた。
 リシウス陛下は少しだけ声を低くして私の耳に囁いた。

「この国では王様は絶対なんだよ。誰も君が妻になることに文句は言わない、言わせない」

 煌めくような青い瞳に私が映る。


「僕を好きなんだろう?」


 抱き抱えられたまま、私は小さく頷いた。


「僕はメアリーを愛してる」

「はい」

「僕の妻になるね?」

「はい」


 私の目には涙が浮かび、彼の顔がよく見えない。


「僕と一緒に行こうね」

 リシウス陛下は、はじめて会ったあの日と同じ言葉を告げる。
 泣いていた私は、笑みを浮かべてあの時とは違う返事をした。


「はい」



 リシウス陛下は溢れるような笑顔を見せて、私に優しく口付けた。
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