Restart~あなたが好きだから~
まず運ばれて来たのは、乾杯用のグラス。


「あの、よろしいんですか?」


中身がアルコ-ルなのを見て、七瀬が尋ねる。当然、氷室が車なのを慮ってのことだ。


「安心しろ、今日は車はここに置いて行く。飲酒運転ごときで自分の将来を棒に振るほど、ガキじゃない。ということで、ハッピ-バ-スディ、七瀬。」


そう答えて、氷室はグラスを上げる。


「ありがとうございます。」


心中のわだかまりはとりあえず横に置き、七瀬もそれに応えて、頭を下げる。口にしたワインは彼女好みの甘口で


「おいしいです。」


思わず笑顔になり


「そうか、ならよかった。」


氷室も少し表情を崩す。続いて運ばれて来たのはイタリアンのコース料理で


「俺のリサ-チによれば、イタリアンを喜ばない女性は少数派だからな。七瀬も例外ではない、そうだろう?」


という氷室の言葉に


「はい、ありがとうございます。」


素直に答える七瀬。前菜から始まるコース料理を堪能しながら


「七瀬は26歳になったんだよな?」


氷室は改めて尋ねて来る。


「はい。」


「若いな。」


「氷室さんとそんなに齢変わらないと思いますけど。」


「いや20代と30代の間には、やっぱり大きくて厚い壁がある。」


一瞬苦笑いを浮かべた氷室だったが、すぐに真顔になると


「俺のリサ-チによれば、26歳は女性が結婚する年齢のピークだそうだ。七瀬は意識しないのか、結婚を?」


そう言って七瀬の顔を窺うように見る。


「えっ?」


いきなり切り込まれて、戸惑う七瀬に


「するわけないか、だってお前はそもそも恋愛に興味がないんだもんな。」


畳み掛けるように氷室が続ける。


「・・・。」


(今までなら「はい」と即答出来ていたはずなのに・・・。)


先日の祖父の法事の際に、今と同じ話を聞き、自分の周りでも結婚へ向けて同い齢の面々が動き出しているのを目の当たりにして、更に一度は心の中に完全に封じ込めたはず大和への想いが、ひょっとした叶うかもしれないという現実が、今の七瀬に「はい」と答えることに躊躇いと戸惑いを覚えさせている。


何も答えない七瀬を、氷室は少し見つめていたが、やがて黙ってナイフとフォークを手に取った。
< 121 / 213 >

この作品をシェア

pagetop