Restart~あなたが好きだから~
福地は黙ったまま、ただ七瀬と大和を先導するように歩を進めて行く。そんな彼に声を掛けることも出来ずに、ふたりは後に従うように付いて行く。


順心堂大学病院は、日本でも指折りの総合病院の1つだが、日曜であるこの日は、普段なら会計を待つ人たちでごった返しているであろうロビ-席にも人影はなかった。そんなエントランスホ-ルを横切り、エレベ-タ-に乗り込む3人。福地の手で7のボタンが押される。


「血液内科・・・。」



そのフロアが何科の病床なのかを確認した七瀬は思わず、そう口にしていた。エレベ-タ-は止まることなく、7Fに到着した。降り立った3人は再び言葉もなく歩き出すが、やがて先導していた福地の足が1つの病室の前で止まった。


「こちらです。」


その病室のネームプレ-トには「佐倉弥生」の名があった。凝然とする七瀬と大和に


「どうぞ、お入り下さい。」


静かに福地が告げる。一瞬顔を見合わせ、躊躇ったふたりだったが、すぐにまず大和が、続いて七瀬がベッドに近付いて行く。


ひとりの女性がそこで眠っていた。それが誰なのか、もうわかっているはずなのに、その現実を認めるのに、ふたりは少し時間が掛かった。


「弥生・・・。」


大和が呟くように、その名前を口にする。そこには、ふたりが知っている姿からは、あまりにも病み衰えてしまった弥生の姿があった。


「弥生。」


もう1度、大和が彼女の名前を呼ぶ。しかし、彼女は目を覚まさない。


「弥生!」


たまらなくなった大和が、声を強めて呼び掛けると、弥生がゆっくりと瞼を開いた。そして、自分に呼び掛けて来る声の主に視線を向けると、次の瞬間、目を見開き


「大和くん、なんで・・・?」


と力ない声で言う。


「俺が連れて来たんだ。」


ベッドから離れた所から福地が答える。その声に彼の方を見た弥生の視界に七瀬の姿が映る。


「藤堂さん・・・。」


言葉もなく、痛ましげな視線を自分に向けている七瀬を見て


「なんで、こんな余計なことをしたのよ、爽哉!」


これまでの弱々しさがウソのような怒りの表情を福地に向ける弥生だったが


「弥生・・・弥生!」


目に涙をいっぱいに浮かべた大和に呼び掛けられると、ハッとしたように彼の顔を見た。


「なんで・・・なんで何も言ってくれなかったんだよ。」


ベットの横に座り、顔を近づけて、絞り出すような声で言う大和に


「ごめんなさい・・・。」


そう答えた弥生の瞳からも、涙が溢れ出して来た。
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