Restart~あなたが好きだから~
「お夕飯は?」


「食べて来た。」


「そう。じゃ、お茶煎れるから。」


そう言って、入れ替わりに立ち上がる母の姿をなんとなく眺めている七瀬に


「そんなに仕事が忙しいのか?」


と話し掛けて来たのは、父の(ただし)


「うん。これでも一応、会社では役職者なんで。部下の手前、あんまりいい加減なことも出来ないからね。」


「それはそうだが、まぁでも身体を壊しちゃ、なんにもならんから、ほどほどにせんとな。」


やや奥歯にモノが挟まったような言い方をした父に対して


「なに言ってるの?もうすぐ26歳になる女の子が、彼氏も作らずに仕事仕事って。一体、何考えてるの?」


娘の前にお茶を置いた母は、全く遠慮がない。


「おいおい、何考えてるは、ちょっと言い過ぎだろう。」


「そうだよ。今どき、そんなこと言ってると、笑われるぜ。」


正と章が窘めるように言うが


「何言ってるの?お隣の大和くんが婚約したって言うのに、あんたと来たら・・・。」


律子は意に介さない。


「大和は彼女と高校の時から付き合ってるんだから。アイツと比較されても・・・。」


ようやく反論の声を上げた七瀬に


「大和くんも婚約者さんもあんたと同い年でしょ。それがすっかり先を越されてしまって。」


律子は更に言い募る。


「別にそんなこと、競争するようなことじゃないでしょ?」


七瀬が言い返すと


「だいたい、大和くんとは小さい頃から仲良しで、ずっと一緒だったのに、なんで他の女の子に取られちゃったのよ?」


律子は今度はため息交じりで言う。


「そんなこと今更言われても、私も大和もお互い、相手をそういう対象に見られなかったんだから、しょうがないじゃん!」


と言った七瀬の語気は鋭くなって、これには、母も父も弟も驚いたような表情になる。それを見て


「あのさ、私、結婚も恋愛も全然興味ないって、何度も言ってるよね?いい加減、人が帰って来る度に(おんな)じことばっか言わないで欲しいんだよね。」


更に強い口調で続ける。


「疲れたからもう寝るよ。明日行く前にシャワ-浴びるから。じゃ、おやすみ。」


と言うと七瀬は立ち上がり、とっととダイニングを出て行く。


「ちょっと七瀬、待ちなさい。」


慌てて律子は呼び止めるが、七瀬は振り返りもしなかった。
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