Restart~あなたが好きだから~
「ねぇ、『ソリュ-ション』っていう言葉の意味、わかってる?」


ここ、IT総合商社「(株)プライムシステムズ」営業部第二課のオフィスでは、書類から目を離し、自分の前に緊張の色を隠せずに立っている入社2年目を迎えたばかりの部下田中瑛太(たなかえいた)を見上げると、藤堂七瀬(とうどうななせ)は厳しい表情と口調で言った。


「『解決』だったと思いますが・・・。」


七瀬の鋭い視線に、思わず目を逸らしながら、田中は答える。


「そうだよね。顧客が抱える課題に対して、解決策を提案するのが、私たちの営業スタイルである『ソリュ-ション営業』でしょ?」


「はい。」


「自社の商品やサービスをただ売り込むだけでなく、顧客の課題を解決するために、自社の商品やサービスがどういった役割を担うのかを提案するんだよね?」


「はい。」


「でもさ、この提案書からは、そういうものが全然伝わって来ないんだけど。ただ、いろいろこじつけて、結局自分が売りたい商品を顧客に押し付けようとしているとしか、読めないのよ。」


「・・・。」


「だいたいこの提案書、分厚過ぎ。この厚さ見ただけで、相手は読む気なくすって。」


「でも、各商品の特徴を説明しようとすると、このくらいの分量には・・・。」


一方的に七瀬に言われて来た田中は、ここで恐る恐るといった感じで反論するが


「提案書に言いたいこと、全部載っけようとするなんて、それこそ自分に自信のない証拠だよ。」


と決めつけられて、絶句する。


「書き直し。」


「えっ?」


「とにかくね。ただの商品売り込みで終わるのではなく、顧客からのヒアリングを重視して、顧客の課題を解決できる商品を提案することがソリューション営業なの。わかったら、すぐに取り掛かる。急いで!」


「は、はい。」


そこで今繰り広げられていたのは、特に珍しくもない光景。七瀬にやり込められた田中は一礼すると、世にも情けない表情を浮かべながら、自席に戻って行く。その後ろ姿を見ながら、1つため息をついた七瀬を、周囲は言葉もなく見ていたが、彼女と目が合うとみな、慌てて目を伏せ、手元のパソコンや書類に目を落とす。


そして、そんな同僚たちの様子など知らぬげに、七瀬もまた、パソコンの画面に視線を落とした。
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